第七回雑文祭参加テキスト (2005.12.22)

七月の出来事

困ったことが起きた。12月22日の冬至に開幕する雑文祭用のテキストに「七月の出来事」というタイトルを付けてしまったのだ。ほんの出来心だった。TPOを完全に無視した表題。こんなTPOをわきまえない人間はPTAに怒られても仕方がないのだが、書いてしまった以上はやむを得ないので、ともかく表題に沿った内容の雑文を書いてみようと思う。言うまでもなく落ちは未定である。

あれは今年の七月某日、時間は夕刻ごろだった。私は大学から帰宅するべく電車に乗りこんだ。幸いにも座席が空いていたため遠慮なく腰掛けた。特にすることもなく、向かいに座っている面々を眺める私。七人がけの座席に並ぶ七つの顔を眺めていたら、その中に見慣れた人を見つけた。いや、正確にいうと全く知らない人物である。その人物が着ていた制服に見覚えがあったのだ。私の母校の生徒だと気づくのに時間はかからなかった。

電車内で特定の人物を凝視するのは悪趣味である。そのため暇を持て余していた私は、窓から見える景色を眺めるなどして時間を潰していた。しかししばらくして、彼は私が予想だにしなかった行動をとった。私の視線は彼に釘付けされた。

彼は最初、漫画の単行本を読んでいた。これだけなら何の変哲もない日常的なワンシーンである。しかしそこから、彼はおもむろに自分の右手を顔に近づけていき、漫画を読みながら鼻くそをほじりはじめたのだ。ただ鼻くそをほじっていたのではない。必要以上の身振り手振りで、5本の指を巧みに使い分けて鼻くそをほじっていた。

さらにあろうことか、しばらくすると彼は左手をも動員させ始めた。10本の指をダイナミックに動かして鼻の中をクリーニングしている。まるで新手のパフォーマンスである。足の指まで使い始めてもおかしくない勢いだった。蒋介石の招待席での余興としても通用するであろうその動きは、見る者(私)を魅了させるには十分すぎた。実に芸術的な動きに私はしばし心を打たれていた。もちろん、彼が読んでいた漫画がブックオフの店頭に並ぶ可能性を懸念していたことも事実である。

それはそれとして、来年もいい年でありますように。


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